重いメタノール、ついに宇宙で発見
重水素は水素の重い同位体だ。私たちの銀河では、水素原子10万個に対して重水素原子は約1.6個しかない。ところが、星が生まれる分子雲の冷たく密な中心部では、重水素を含む分子が、この比から予想されるより何桁も多く存在することがある。これほど低温では、いくつかの鍵となる反応が重水素を着実に分子へと送り込み、その効果は時間とともに大きくなる。だから、ある分子に含まれる重水素の量は、その分子がいつ、どこでできたかを示す手がかりになる。
もっともありふれた複雑な分子
メタノール(CH₃OH)は、星が生まれる領域で最も多い「複雑な有機分子」、つまり炭素を含む6原子以上の分子だ。その大部分は、星が輝きはじめる前の冷たい時期に、塵の粒子を覆う氷の中でできる。そして、より複雑な分子へと向かう足がかりになる。
メタノールには水素原子が四つある。炭素の側に三つ、酸素の側に一つだ。炭素の側に重水素が一つ、二つ、三つ入った形は、すでに宇宙で検出されていた。四つすべてが重水素になった完全重水素化メタノール、CD₃ODは、その兆しが見えていただけだった。その電波の特徴を予測した実験室のデータは、2023年からある。
IRAS4A2からの10本の輝線
ボンのマックス・プランク電波天文学研究所のA・ベロッシュ(A. Belloche)と、欧州、米国、アジアの共同研究者たちは、COMPASSを利用した。これはALMA電波望遠鏡群による大規模な観測計画で、「ホットコリノ」をもつ若い低質量星11個を調べている。ホットコリノとは、氷に閉じ込められていた分子が蒸発して電波で輝く、温かくコンパクトな領域のことだ。研究チームは、290パーセク離れた雲NGC 1333の中にある連星の一方、IRAS4A2に注目した。ここは、若い星のまわりで完全に重水素化されたアンモニアが初めて確認された場所でもある。
279〜312ギガヘルツの周波数を走査し、チームは約200ケルビンの温度で、メタノールとそのすべての変種からの放射をモデル化した。電波の指紋が公開されているメタノールの変種は、どれも姿を現した。その中に、10本の輝線がはっきり検出された CD₃ODがあった。完全に重水素化されたメタノールが宇宙で確実に検出されたのは初めてであり、著者らによれば、重水素原子を四つもつ分子が星間空間で確認されたのも初めてだ。その量は、そこにあるメタノールの約1万分の4にあたる。
隠れるメタノール
これには謎がついてきた。珍しい炭素13や酸素18を含む形と比べると、ふつうのメタノールは少なすぎるように見えた。およそ7〜11分の1しかないのだ。一方、珍しい形どうしの比較は筋が通っていた。著者らは、ふつうのメタノールの量はおそらく過小評価されていると結論づけた。その放射が、なめらかな雲ではなく塊から来ているせいかもしれない。そこで重水素の比を計算するには、代わりに珍しい形を使った。
偶然を超えてたまる重水素
もし重水素が一定の確率でランダムに水素と置き換わるだけなら、どの変種からも同じ重水素と水素の比が導かれるはずだ。ところが実際には、導かれる比は重水素原子の数とともに上がっていく。重水素が一つの形では約1%、二つや三つの形では9〜23%、CD₃ODとCH₃ODを比べると約41%になる。IRAS4A2でのこのパターンは、別の若い星BHR71-IRS1のものとほぼ同じで、ほかの低質量原始星とも似ている。
重い側を取りこぼすモデル
チームはこれらの比を、メタノールとその重水素化された形がどう蓄積するかを扱った、公表済みの五つの化学モデルと比べた。どのモデルも重水素を複数含む形を過小評価しており、その差はふつう1〜2桁、あるモデルのCD₃ODでは約5桁に達した。著者らの結論はこうだ。重水素を多く含むメタノールを後押しする重要な要素が、いまのモデルには欠けている。
この検出は予測も与える。残る二つの変種、CH₂DODとCHD₂ODは、実験室の分光学者がその電波の特徴を提供すればすぐに、IRAS4A2で簡単に見つかるはずだ。より高い角度分解能でくわしく見れば、メタノールが本当に塊の中にあるのかどうかも明らかになるかもしれない。
