ハエの配線図が見ることと数えることを覚えた
脳ができることのうち、どれだけがすでに配線に書き込まれているのだろうか。この問いは、ある一つの動物で検証できるようになった。成虫のショウジョウバエの脳の完全な配線図、つまりコネクトームが手に入るようになったからだ。著者らによれば、これは複雑な行動ができる脳について初めて得られた完全な地図だという。検証すべき考えの一つが配線の経済性だ。進化は、コストのかかる長い接続を最小限に抑えつつ、よく働く回路を選んできたはずだ、という考えである。
コンピューターの中の脳、その前に置かれた眼
カタルーニャ州タラゴナにあるロビラ・イ・ビルジリ大学のエウダル・コレイグ=フラガ(Eudald Correig-Fraga)、ロジェ・ギメラ(Roger Guimerà)、マルタ・サレス=パルド(Marta Sales-Pardo)は、校正済みのDrosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)のコネクトームから出発した。ニューロン13万9255個、シナプス接続5450万本である。
まず彼らは、同じデータからハエの複眼を再構築した。視細胞の位置から、眼をつくる小さな単位である個眼の一つ一つを復元し、それぞれが視野のどれだけを見ているかを求めた。視細胞の各タイプには、測定された色の感度を与えた。ただし通常の赤・緑・青の画像を使えるように200ナノメートルずらしたので、ハエの紫外線チャンネルは青になる。

画像から判断まで。色のついた点が再構築された複眼で取り込まれ、活動が実際の配線を通ってケニオン細胞まで流れていく。— Figure 1, Correig-Fraga, Guimerà & Sales-Pardo (2026), arXiv:2610.10023.
光はまず網膜のニューロンを活性化し、活動は実際の配線を一段ずつ伝わって、キノコ体のケニオン細胞へと広がる。そこで、たった一つの単純なユニットが判断を読み出す。脳には何も付け加えない。モデルが学習してよいのは既存の接続一本につき一つの強さだけで、その値には上限があり、実際に観察されたシナプスの数を超えることはない。
色、形、数
チームは三つの視覚課題を試した。
- 色。 円は青か黄色か。どのモデルも100%近い成績だった。本物の配線は**訓練なしでも92%**に達した。
- 形。 円か星か。視野の左半分の画像で訓練し、右半分の画像でテストしたところ、本物の配線は**64%**に達した。
- 数。 どちらの色の点が多いか。大きさで答えがわからないよう、各色の総面積はそろえてある。モデルには点がいくつあるかは一度も教えていない。正答率は二つの数の比とともに上がり、**比が1.5のとき64%、比が5のとき85%**になった。このパターンはおおまかな数の感覚の特徴で、論文によれば本物のショウジョウバエでも見られている。
シャッフルした脳
正確な配線が重要かどうかを確かめるため、研究者たちは、同じニューロンをもつ四つのかき混ぜた版の脳をつくった。
- 制約なしの版。各ニューロンから出る接続がでたらめな相手につながり、長い配線がたくさんできる。
- 刈り込み版。総配線コストが本物の脳と同じになるまで削ったもの。ただし接続は平均して長い。
- 二つの距離をそろえた版。配線の長さの分布と総配線コストを本物と同じに保ったもの。
長い配線をもつかき混ぜた脳では、活動は2段目でほぼ脳全体にあふれる。本物の脳では、活動は眼から内側へと、もっと段階的に進んでいく。

三つの課題における本物のコネクトーム(青)と四つのシャッフル版の正答率。右は、二つの量の比が大きくなるほど数の識別がよくなるようす。— Figure 3, Correig-Fraga, Guimerà & Sales-Pardo (2026), arXiv:2610.10023.
長い配線の代償
制約なしの脳と刈り込みの脳は、より高い成績をあげた。たとえば形の課題では64%に対して70%だった。長い接続を通じて、より多くのニューロンにより速く届くことで得をしているのだ。著者らによれば、それはまさに、本物の動物にとってはエネルギーと発生上の複雑さという代償を伴う接続である。同じ配線予算、同じ配線長の分布という公平な条件で比べると、本物のハエの脳は、すべての課題で二つのかき混ぜたライバルの両方に勝った。著者らはこれを、性能と配線コストのあいだで進化が見つけた効率的な折り合いだと解釈している。
意図的に単純なモデル
このモデルは、本物のニューロンの生物学の大部分を無視している。発火頻度も時定数もなく、ケニオン細胞を通じた読み出しも、ハエの判断回路全体ではなく便宜上の選択だ。かき混ぜた脳は、それぞれ一度しか生成していない。著者らはこの研究を出発点と位置づけている。より豊かなニューロンの動態を加える前に、測定された配線図がそれだけで何をできるのかを問うための方法だ。
